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小児疾患の漢方治療

一、生理・病理の特徴
〔一〕生理
1、臓腑幼弱・形気未熟
  
小児の生体と生理機能が未熟で完成されていないこと。
2、生機旺盛・発育迅速
  
小児の成長と発達は朝日が昇るがごとく、また春の新芽ように勢いよく成長すること。
〔ニ〕病理
1、発病容易・変化迅速
病気にかかりやすく、病態や症状の変りが早いこと。
2、臓気旺盛・回復容易
小児の臓気が旺盛であるため、回復しやすく早いこと。
二、漢方薬投与上の注意
  1. 症状や体質が改善されたら中止すべきである。
  2. 大寒・大熱・大辛・瀉下などの生薬を用いた方剤は慎重に投与する。
  3. 薬剤に対する感受性は成人より敏感であるため投与量を考慮する。
  4. 小児は胃腸が弱いため少量ずつ分けて投与するほうがよい。
  5. 剤型に当たっては小児に飲ませやすいように配慮する。
三、常用漢方エキス剤
〔87〕六味地黄丸(ろくみじおうがん)

【組成】地黄、山薬、山茱萸、沢瀉、茯苓、牡丹皮

【適応症】虚弱体質、腰や膝の脱力感、頭のふらつき、めまい、耳鳴り、聴力減退、手足のほてり・のぼせ、体の熱感、口や咽喉部の乾燥感、午後の潮熱、寝汗、遺精、舌質は紅、舌苔は少ないあるいは無苔、脈は細数など。

【臨床応用】ポイント:

  1. 体の疲れ、手足のほてりやのぼせ、体の熱感。
  2. 発達遅延による諸症状。
小児の発達不良:
小児の発達が遅れる場合(五遅:歯遅、行遅、智遅、語遅、泉門閉鎖の遅延)には本方を投与すると、発達を促進する効果が得られる。
(2)小児発熱:
小児に原因不明の発熱が続き、口渇、疲労倦怠感、手足のほてりやのぼせなどの症状を伴う場合には本方を投与すると解熱や体質の改善などの効果が得られる。高熱時には白虎加人参湯を合方する。
(3)小児のアトピー性皮膚炎:
小児の皮膚に発疹、カサカサする、かゆみ、熱感が見られる場合には本方を投与する。
(4)夜尿症::
夜尿、元気がない、寝汗、手足のほてり、のぼせなどの症状が見られる場合に適応する。子供の夜尿症には、しばしば腰椎分裂症を伴うことがあり、六味丸を投与することにより夜尿症だけではなく腰椎分裂症を完治したことが報告されている。年齢は若ければ若いほど治療効果が高い。

その他に糖尿病、甲状腺機能亢進、リュウマチ性関節炎、気管支喘息、腎炎、ネフローゼ、脊柱側弯症などにも用いられる。

【参考】本方は現代薬理研究によって、

  1. 抗低温、抗疲労
  2. 腎機能を調節する(尿素の排泄を促進する)
  3. 肝機能を保護する
  4. 聴神経機能を保護する
  5. 腫瘍を持つ動物の免疫、代謝、造血機能を改善するため、延命効果がある。
  6. 食道上皮細胞の癌変を抑制する
  7. 血糖、中性脂肪、尿素窒素を降下する
  8. 血圧降下作用
  9. カルシウムやリンの代謝を調整する
  10. 免疫能の調節作用、抗老化作用などの効能が証明されている。

【使用上の注意】

  • 本方は薬性が滋膩(甘味があってしつこい)であるので胃腸が弱く、軟便や下痢の症状を伴う場合に慎重に投与する。
  • 手足の冷えや寒がりが見られる小児に投与しない。
〔1〕葛根湯(かっこんとう)

【組成】葛根、麻黄、桂枝、炙甘草、芍薬、生姜、大棗。

【適応症】悪寒、発熱、くしゃみ、鼻水、首や背中の痛み、肩こり、頭痛、無汗、舌苔は白薄、脈は浮緊。

【臨床応用】ポイント:

  1. 悪寒、発熱、鼻水、くしゃみ、頭痛、無汗を伴う感冒の初期。
  2. 冷え、寒がりを伴う首や頭部の痛み。
    感冒、流感、鼻カゼ、熱性疾患の初期、炎症性疾患(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、リンパ腺炎、乳腺炎)、蕁麻疹、特発性三叉神経痛、後頭部神経痛、脳炎、脳膜炎、流行性耳下腺炎、小児夜尿証、乾癬、慢性鼻炎などに効果がある。

【参考】現代薬理研究によって、以下のことが証明されている。

  1. 発汗・解熱作用
  2. インフルエンザウイルス感染症に対する作用
  3. 血管拡張作用・血流改善作用
  4. 抗アレルギー作用など。
    本方は体力があり、反応性に富んだ体質、漢方でいう「実証」傾向がある子どもで感冒やインフルエンザの急性期、他の感染症の初期に適応されるが、体力のない「虚証」の子どもや感冒・流感の回復期には適応されない。

【使用上の注意】

  • 本方は体が弱く、汗が出やすいものに適応しない。
  • 葛根湯は感冒やインフルエンザの回復期にサイトカインなどの生体反応を抑制するため虚弱体質の子どもには適当ではない。
〔19〕小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

【組成】麻黄、桂枝、半夏、芍薬、五味子、炙甘草、細辛、乾姜   

【主治・適応症】

(1)外感風寒:
咳嗽、呼吸困難、喘鳴、白色で薄い多量の痰、あるいは粘液と泡のような痰、くしゃみ、透明で多量の鼻水、鼻閉などの寒痰の症候に、悪寒、無汗、頭痛、身体痛、発熱などの表証を伴う。舌苔は白潤、脈は浮緊。
(2) 寒痰の喘咳:
気候が寒くなるあるいは体が冷えると、発作性の呼吸困難、喘鳴・咳嗽・痰、舌苔が白膩などの症状が見られる場合。

【臨床応用】ポイント:

  1. 悪寒、鼻水、くしゃみ、喘息、白色で薄い多量の痰。
  2. 寒くなると、あるいは体が冷えると症状が悪くなる。
    気管支喘息・気管支炎・アレルギー性鼻炎、感冒・インフルエンザ・百日咳、気管支肺炎などに効果が得られる。

【参考】本方は薬理研究によって、

  1. 気管支平滑筋けいれんを抑制する
  2. 抗アレルギー作用
  3. 鎮咳・?痰の作用
  4. 副腎皮質に影響し、副腎皮質ホルモンとACTHの分泌を促進する
  5. 肺と全身の血液循環を促進して呼吸機能を強めるなどの作用が証明されている。

【使用上の注意】

  • 本方は薬性が辛・温・燥であるため、長期間に投与しないように注意する必要である。
  • 空咳や咽喉部の乾燥感などの症状が見られる場合に投与を禁忌する。
  • 午後の発熱、咳嗽、喀血、黄色い痰などの症状が見られる場合に投与しない。
〔43〕六君子湯(りっくんしとう)  

【組成】人参、白朮、茯苓、炙甘草、陳皮、半夏

【主治・適応症】疲れやすい、顔色が萎黄、食欲不振、軟便あるいは下痢便、上腹部のつかえ、悪心、嘔吐、咳、痰が薄くて多い、舌質は淡白で肥大、舌苔は白厚膩、脈は滑弱など。

【臨床応用】ポイント:

  1. 食欲不振、疲れ、痩せる。
  2. 吐き気、嘔吐。
    慢性胃炎、胃十二指腸潰瘍、胃下垂、胃アトニー、神経性無食欲症、上腹部不定愁訴、抗癌剤や放射線療法の副作用、逆流性食道炎などに効果が得られる。

【参考】本方は薬理研究によって、

  1. 胃粘膜障害の抑制作用
  2. 胃粘膜血流増加作用及び血流低下抑制作用
  3. 胃排出促進作用
  4. 消化管運動亢進作用
  5. 胃酸・ペプシンの分泌抑制作用
  6. 胃粘膜防御因子の増強作用
  7. 活性酸素消去作用
  8. 胃適応性弛緩の増強作用などが認められた。

【使用上の注意】手足のほてりやのぼせ、潮熱などの症状を伴う場合に慎重に投与する。

〔26〕桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)

【組成】桂枝、芍薬、竜骨、牡蛎、甘草、大棗、生姜

【主治・適応症】不安感、不眠、頭のふらつき、潮熱、動悸、煩燥、驚きやすい、夢が多い、手足の冷え、疲れやすい、舌質は淡、舌苔は薄白やや乾燥、脈は浮弱あるいは?、微、動など。

【臨床応用】ポイント:

  1. 精神不安、驚きやすい、疲れやすい、夢が多い、手足の冷えなど。
  2. 夜尿症、夢遊症、神経症、虚弱体質などに投与する。

【参考】本方は、薬理研究によって、

  1. 竜骨・牡蛎は豊富なカルシウム分を含み、鎮静・鎮痙に働いて脳の興奮性をしずめ刺激閾値を上昇させ、かつ止汗作用によって津液を保持する。
  2. 芍薬・大棗は滋養強壮作用の以外に、鎮静・鎮痙作用があり、炙甘草も鎮痙効果をつよめる
  3. 桂枝・生姜は血管拡張によって血液循環を促進し、消化吸収をつよめ、全身に栄養をゆきわたらせるなどが考えられる。

【使用上の注意】

  • 発疹、痒みなどの過敏症状が見られると中止すべきである。
  • 高血圧、顔面の紅潮、怒りっぽいのものに投与しない。
三、症候による漢方エキス剤の使い方・選び方
臨 床 の 症 候

漢方エキス剤

脾胃虚弱型
胃部の痛み、不快感、疲労倦怠感、食欲不振、味がない、軟便、舌質が淡、舌苔が薄白、脈が沈細無力。
(43)六君子湯
(75)四君子湯
中気下陥型
全身の疲労倦怠感、痩せ、食欲不振、内臓下垂、慢性下痢、脱肛、舌質が淡、舌苔が薄白、脈が虚あるいは沈弱。
(41)補中益気湯

陽気虚損型
腹痛、暖かいものがすき、疲れると腹痛が見られ、寒がり、冷え、疲れやすいなどを伴う。舌質が淡白、脈が虚細無力。
(99)小建中湯
(98)黄耆建中湯

陰血不足型
腹部の痙攣性疼痛、顔色が悪い、動悸、多夢、食欲不振、潮熱、寝汗、痩せなど。舌苔が紅少苔、脈が細数あるいは細弱。
(68)芍薬甘草湯
脾虚泄瀉型
顔色が悪い、痩せて、食欲がなく、下痢あるいは軟便、腹痛、嘔吐など、舌質が淡、舌苔が白い、脈が沈細弱。
(128)啓脾湯
肝鬱脾虚型
気にしやすい、怒りやすい、腹痛、腹部膨満感、吐き気、食欲不振、下痢あるいは便秘、舌質が淡、舌苔が薄白、脈が弦細。
(24)加味逍遥散
心脾両虚型
精神不安、驚きやすい、眠りが浅い、寝つきが悪い、食欲がない、元気がない、腹部膨満感、軟便など。舌質が淡紅、舌苔が薄白、脈が細弱。
(137) 加味帰脾湯

気滞型
腹部の脹痛や膨満感、嘔気、ガスがよく出る、咽喉部や食道の異物感、過換気症候群など。舌質が淡、舌苔が薄白、脈が沈渋。
(96)柴朴湯
腎陰虚型
疲労倦怠感、手足のほてりやのぼせ、潮熱、寝汗、下肢の脱力感、発達遅延、骨の異常、むくみ、排尿異常、痒みなど。舌質が紅、舌苔が少ないあるいは無苔、脉が沈細。
(87)六味地黄丸
風寒感冒型
 悪寒の目立つもの。鼻閉、透明な鼻汁、咳、痰が白い、咽喉部の痛み、発熱、発汗しない、身体痛、頭痛など。舌質は淡、舌苔は薄白、脈は浮緊。
(1)葛根湯
肺陰虚型
 空咳、上気道の乾燥症状が目たつもの、空咳または小量の粘稠な痰、咽喉部の乾燥感、かすれ声、寝汗、手足のほてり、微熱など。舌質は赤く乾燥、舌苔は少ない、脈は細数。
(29)麦門冬湯
正虚邪恋型
 微熱、やや悪寒、汗がかけやすい、しばしば身体痛、四肢の筋肉痛、頭痛、食欲不振、心窩部の苦満感等を伴う。舌質は淡紅、舌苔は薄黄、脈は細弦。 
(10)柴胡桂枝湯
肺寒型(アレルギー性鼻炎)
気候が寒くなると、あるいは体が冷えると、くしゃみ、水のような鼻汁、鼻塞、鼻粘膜に充血が軽く水腫があり、粘膜の色が淡あるいは淡紅など、舌質が淡白、舌苔が薄白、脈が浮緊。
(19)小青竜湯
(2)葛根加川?辛夷
肺熱型(アレルギー性鼻炎)
鼻汁が黄色い、鼻塞、鼻部に熱感があり、鼻粘膜に充血がひどく、粘膜の色が紅絳など。舌質が紅、舌苔が薄黄で、脈が弦数あるいは滑数。
(104)辛夷清肺湯

肝経虚熱型
いらいら、怒りっぽい、夜泣き、息止め発作、震え、精神不安、睡眠が浅いなど。舌質が紅、舌苔が薄黄で、脈が弦細数
(54)抑肝散

四、ポイント症状による漢方エキス剤の使い方・選び方

臨  床  症  状

漢方エキス剤

★ かぜやインフルエンザの早期に悪寒、鼻水、鼻詰まり、頭痛、発熱、自然発汗がないなどがある場合。
(1)葛根湯
★ 感冒、アレルギー性鼻炎、喘息などに水のような鼻水、くしゃみ、咳、白い薄い痰、喘息、寒くなるとひどくなる場合。
(19)小青竜湯
★ 気管支喘息、気管支炎などに発熱、熱感、咳、呼吸困難、喘息等を伴う場合。
(95)五虎湯
★ 蓄膿症、慢性鼻炎、アレルギー性鼻炎などに鼻塞、頭痛、寒くなると症状がひどくなる場合。
(2)葛根加川?辛夷湯
★ 感冒・インフルエンザ・肺炎など熱性疾患の回復期、虚弱体質などに微熱、軽い悪寒、食欲不振、自汗などを伴う場合蓄

(10)柴胡桂枝湯
★ 感冒性嘔吐、下痢症、浮腫などに嘔吐、口渇、尿量減少などを伴う場合。
(17)五苓散
★ 慢性下痢あるいは消化不良便、食欲不振、体がだるく疲れやすい場合。
(128)啓脾湯
★ 慢性疾患、神経症、虚弱体質などに食欲不振、疲れやすい、偏食、痩せなどが見られる場合。
(43)六君子湯
★ 神経症、夜尿症、登校拒否、起立性調節障害、虚弱体質などに腹痛、食欲不振、腹部膨満、腹直筋の緊張等を伴う場合。
(99)小建中湯
(98)黄耆建中湯
★ 慢性疾患、虚弱体質、起立性調節障害などに疲労倦怠感、風邪を引きやすい、元気がない、痩せなどが見られる場合。
(41)補中益気湯
★ 神経症などにいらいら、怒りっぽい、夜泣き、息止め発作などが見られる場合。
(54)抑肝散or
(83)抑肝散加陳皮半夏
★ 神経症などに精神不安、不眠、疲れやすい、眠りが浅く夢が多い、心悸、集中力の低下、食欲不振などがある場合。
(137)加味帰脾湯
★ 神経症などに精神興奮、精神不安、不眠、夜泣きなどが見られる場合。
(72)甘麦大棗湯
★ 神経症、夜尿症などにいらいら、ねぼけ、夜泣き、体の熱感などの症状が見られる場合。
(12)柴胡加竜骨牡蛎湯
★ 夜尿症、神経症、虚弱体質などに精神不安、不眠、煩燥、驚きやすい、夢が多い、手足の冷え、疲れやすいなどを伴う場合。 
(26)桂枝加竜骨牡蛎湯
★ 慢性腎炎、ネフローゼ、関節炎、肥満、多汗症などに体の疲れ、蛋白尿、浮腫、関節や筋肉の痛みが見られる場合。
(20)防已黄耆湯
★ 腎炎やネフローゼなどに浮腫、むくみ、発熱、尿量減少、蛋白尿などを伴う場合。
(114)柴苓湯
★ 発達遅延、夜尿症、虚弱体質、免疫疾患、骨の病気、アレルギー性疾患、腎炎やネフローゼなどに体の疲れ、手足のほてり、のぼせ、寝汗、骨の異常、むくみ、排尿異常、痒みなどを伴う場合。
(87)六味地黄丸

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